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ミワいつか
2006/07/22(Sat)
黒と白のリゾート時間


ナホは黒くて、あたしは白い。ナホはもっと黒くなろうとして日差しが強烈なビーチに寝そべっているけど、あたしは日焼け止めを塗りたくっているからきっとこの先もナホとあたしの色の差は縮まることはないだろう。
心配されていた雨は一滴も降らずに、晴れ間が広がってきて、白い砂青い海、マナ島のリゾート生活の始まり。
浮き輪を膨らましている時間、海に入ろうとするも日が陰ってきちゃったからと躊躇する時間、ビーチのチェアに寝そべって本のページをぱらぱらとめくる時間、また海に入りたくなってそそくさとシュノーケルをくわえる時間、すべてが無駄のようで有意義なリゾート時間。
レストラン3つ、バーも3つ、コース料理もいろいろなカクテルもあるけれど、残念お金がないからそんなにじゃんじゃん楽しめない。タダのものは目一杯楽しんで、お金を出しても元を取り返すぐらいバイキングで食べまくる。フィジーの伝統料理ロボをがっつく黒い女と白い女。満腹の帰り道は空を見上げると満天の星空で南十字星や天の川まで見えた。ゆっくり寝てやるぞと思った。
旅の総まとめ。


まだ学校が始まらないアパートで静かな朝を迎える。時計を見ると8時。寝袋を丸めることもこれで最後。朝食にかわいくぶどうが盛られたヨーグルトとオーストラリアで大人気のTim Tamというお菓子をいただきながら、パソコンを借りてメールをする。旅先からメールをするのもきっと最後。

鈴木さんはニューサウスウェールズ大学の敷地内に住んでいるけれど、実際に通う美術学部のキャンパスは別のところにある。メインキャンパスからシャトルバスが出ていてそれで通うことになるそう。今日はマーケットに行きたいという私のリクエストに、まず週末に開かれるパディントンマーケットというところへ案内をしてもらうことにした。パディントンはブティックやギャラリーのある青山のようなおしゃれな界隈でそこに美術学部のキャンパスもある。容易に一周できる小さなキャンパスをぐるっと外から案内してもらった。中には入れなかったけれど、College of Fine Artsの頭文字をとったCOFAという四文字とカラフルな旗が掲げられているその学校は、大きな木(シドニーの木はみんな大きい!)と閑静な住宅街に囲まれて魅力的な施設がぎゅっと詰まっている。ロンドンに留学したこともある鈴木さんは学校選びの際に、美術の理論だけではなくて実技コースもある学校にしようと決めていたそうだ。

学校のギャラリーIvan Dougherty Galleryで展示がやっているようなので早速中に入ってみると面白い作品がいっぱいあった。プロダクトでは、例えばつま先が湯たんぽになっている靴や、メジャーの目盛りの付いたベルト、黄色などのグラフィカルなプリントがなされた科学雑巾でつくられたバックは汚れたり持ち手が切れたらモップとして使いましょうというタグ付き。SUSHIやSASHIMIのテイクアウトに必ずついてくる魚の形の小さな醤油入れを使った照明。どれも完成度が高い。もう一つ、黒や茶色系数色で織られた作品が気になった。鈴木さんが英語のキャプションを読んで解説してくれなければ、通り過ぎていたかもしれないこの作品は、「人は知り合いを6人介すると世界中の人々と間接的な知り合いになれる」という統計学の法則"6 degrees (of Separations)"(日本語では“6次の隔たり")といわれる法則をコンセプトに作品化したもので、作品は髪の毛で織られていた。深い黒から金髪まで、こうして織られてみると人間の髪の毛の色の多様なことに改めて驚くばかりか、多様すぎてまさか髪の毛だとは思わなかったくらい。たった6人で世界がつながるのかぁ。展示が面白かったので、カタログを買うことにしたら、GOLD COIN(1ドル、2ドルコインはゴールド)で自分で決めた金額で購入するというそれまた面白いものだった。

通り道だったAustralian Centre for Photographyという会場で、Sharon Lockhartの作品を見る。Sharon Lockhartは鈴木さんがスタッフを勤めていたアーカスプロジェクトの事業がまだパイロット構想の段階で招聘されたアーティストで、またしてもアーカスの招聘力に感心してしまう。もう一つ一番奥で流れていたOlga Chernyshevaの"Russian Museum"という作品がとても気に入った。ロシアの美術館の作品に反射して映り込む鑑賞者の人たちの姿。作品と鑑賞者の関係を視覚化した作品。音楽もよかった。

パディントンマーケットはアート色が強く、アクセサリーや洋服や絵画なども出店されていた。ジャムの瓶が積み上げられた小さなパラソルの下で、"Not Just Jam"と書かれたジャムを試食したらすっかり虜になってしまった。Onion JamやLemon Passionfruit Butterなど、組み合わせの魅力的な新たな可能性を秘めたジャムたち。売っていた男の人の手作りだそう。重いけれど買わずにはいられない!ジャムを購入してから、数件出ていた屋台のうち名前とバリエーションに惹かれて"HIMALAYA CUISINE"というところでお昼を買うことにした。カレーが2種と、オーストラリアラムやら野菜やら(あと何だっけ?)とにかくてんこ盛りのプレートを注文して、もうまたお腹いっぱい!

現代美術館で昨日見切れなかった作品を見てから、州立美術館へ向かう前、Hyde Park Barracks Museumの屋外で一つ作品を見る。Miroslaw Balkaというポーランドの作家の作品。キャプション説明に"Birkenau"という知っている土地の名前があった。アウシュビッツ第2強制収容所があるところだ。ナチスがいっぱいになるまで死者の灰を投げ込んだ池。作家が冬に訪れたとき、その池は薄い氷と雪に覆われて美しい風景だったそう。歴史が封じ込められたはかない風景が屋外に写真技術を使って表現されている。上を見上げて作品を見ると、さっき降った雨が池のようにたまっていて、作品のイメージを助長していた。

州立美術館Art Gallery of New South Walesも面白かった。森美術館のアフリカ展にも出品されていて鈴木さんが好きだというエジプト出身のGhada Amerの作品や、ラトビアのEvelina Deicmaneの真っ黒な平面を凝視してみると、実は写真プリントで人の姿が浮かびあってきた作品(ホントは箱に入って真っ暗な状況で見るというものだったのに、くり抜かれた目の位置がここまで違うかというくらい全く合わなかった)。日本人では森山大道、束芋さんの作品もあった。束芋さんの作品は寒い寒いヘルシンキのキアズマで見た作品と同じ"Hanabi-ra (2003)"で、いかに今世界で注目されているかがわかる。そして初めてみた竹村京さんの作品がまた素晴らしい。割れたコーヒーカップや食器が糸と布を使って(!)丁寧に修復されていて愛おしい姿をしているだけでなく、例えば"renovated coffee cup 2005"と名付けられた修復されたコーヒーカップの素材のキャプションには"German coffee cup,broken by accident when K.T pured coffee"と壊れたときの状況まで盛り込まれている。アーカスに招聘されたことのある作家の展示がここ州立美術館にもあった。タイのTawatchai Puntusawasdi。いつの話かは定かでないけれど、立体作品をつくりたくて、でもアトリエが狭いのでどうしたかというと、"紙の上で立体作品をつくる"ことにしたというエピソードを聞いた。3次元の世界を一度2次元に落とし込み、それをそのままを再び3次元に構築するというような試みをしているそうで、例えば正面から見ると普通の家に見えるのに、家のサイドへ回り込んでみるとぺっちゃんこ、という作品があるらしい。私の卒業論文は服飾の分野ではあったけれど、立体裁断という3次元の世界で服づくりをする西欧と、平面裁断という2次元の世界で考えたものを最終的に身体という3次元にあてはめていく日本の手法による相違だったので、この2次元と3次元を時空を越えて行き来する考えがとても興味深かった。Olga Chernyshevaの"Russian Museum"がここでもモニター上映されていた。この作品はDVDなどないのかとカフェでお茶をしておしゃべりしていたら、あっという間に17時の閉館時間。荷物を取りに鈴木さんのアパートへ戻り、バス停まで見送ってもらって400番のバスで空港へ。この旅の終わりをどっぷりとアート鑑賞できてよかった。アートの世界はやっぱり面白い。しかも鈴木さんが隣でいろいろと説明してくれたので、作品を見たアーティストとの距離がぐっと縮まった。鈴木さんは一言で「アートは社会に必要なもの」だと言っていた。きっと面白い切り口でアートのマネージメントをしていくでしょう。今後の活躍が楽しみです。

Domesticでバスを降りないよう注意しながら、International Airportだということを運転手さんに確認してバスを降りる。早く着いたのでまだチェックインカウンターがやっていなかった。お土産を見て小銭を使いきる。分厚かった航空券の束の最後の一枚が搭乗券に変えられた。短期間でよく飛行機に乗ったものだ。搭乗ゲートにまたSAMSUNGフリーのブースがあったのでメールチェックをする。

CIRCUMNAVIGATION最後のフライトはカンタス021便。空いていて隣には誰もいない。日本語の「おくつろぎください」という機長アナウンスに甘えて、3シートを独占使用する。9時間半のフライトにシャンパンを頼んで一人乾杯。さば味噌の日本食の機内食を食べながら、ドキドキが止まらない。これはお酒を飲んだからではない。引き始めたばかりと思っていた一周ラインがまもなく結ばれる。自分と素直に対峙できるのは旅が終わる瞬間だけ。いつしかこの旅の記憶も夢を見ていたかのように遠くへ行ってしまうこともわかっている。夢に化けるまでのこの時間こそきっと夢のような時間。そんなことを考えながらいつの間にか眠っていた。目が覚めると月が笑っていた。オリオン座は真横向きになっていて私と一緒に寝ているみたいだった。
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